シシブンロク、シブゴレツ

とにかく小唄詩人という一芸があるから、それで身を立てる気があるかというと、なかなかどうして
「流行唄も、もう脈が上がったね。この頃、サッパリ、盤(レコード)が出ないそうだ。稼いだってツマらんよ。」
「そうね。貴方にできるような商売が、そう永続きするはずないわね。」
 細君の歌江さんも、慣れたもので、激励の辞なぞはいっさい述べない。
 こういう亭主をもって、ヤキモキしたって、寒冷紗と相撲をとるようなものだから、歌江さんも覚悟をきめて、この頃は自ら生活戦線へ出馬してるのである。
 
呑気族/獅子文六